多くの人々が、組織でリーダーとなる者へ向ける眼差しは、
「リーダーとなる人は生まれながらにリーダーになる素質を持っている」
というものである。
しかし、それは”リーダーたちが担う巨大な責任に対する侮辱である”
とジョージタウン大学の「サム・ポトリッキオ教授」は語っている。
いつの時代にもリーダーは存在している。
家族であれば、大黒柱である「父親」という存在は、まさに
一家のリーダーである。
経済の観点から見れば女性も社会へ進出し、一家で夫婦共闘する姿も珍しくなくなったが、
屋台骨を支える姿としてイメージされるのはやはり父親であろう。
会社や国家においても、各組織内でリーダーという人間が存在し、
タクトを振るうその腕一本で組織としての向かうべき道は、天国にも地獄にもなりうる。
では、リーダーという存在はどのようにしてその質を作り上げるのか。
いや、その前にリーダーとなった瞬間からリーダーはどのように意識を変えていかなければならないのか。
そのためには、まず人間が持つ4つの弱点を克服するところから始まる
1つ目の弱点は、「集中力の維持」である。
デジタル社会となった現代では、集中して取り組みたい案件があっても
スマホで何らかのアラートが鳴るとどうしてもそのお知らせの内容が気になってしまう。
スマホがあれば、簡単にメッセージを送れるしゲームもできる。
いつでもインターネットに接続できる。
そして、大量の情報を手に入れられるデジタル機器は、
イコール集中力の欠如を生んでしまう。
複数の仕事のプロジェクトリーダーを請け負ったりすると、
仕事を抱えている忙しい自分に陶酔する気持ちになりかねない。
デジタル機器さえあれば、多種多様なツールを使って時間と自分を管理できるし
自分がいなければ周りがうまく機能しない。
と思っている人が多いかもしれないが、実はそんなことは全くない。
むしろ、リーダーとなったのであれば、目の前の大きな課題を全力で対応した方がいい。
自分が抱えている仕事が複数あるのであれば、周囲に分散し、少なくとも自分が関わる比率は少なくするべきである。
周囲にそのようなレベルに達している人間がいない、
と思った方は、もう一度冷静に自分の周りにいる人達を思い浮かべてみるといいだろう。
自分の振るうタクトが上手く機能すれば、デジタル機器でガチガチのスケジュール管理をしなくても仕事がスムーズに進むはずである。
2つ目の弱点は、「内集団バイアス」である。
リーダーが自分と同じチームもしくは自分の意見に同調する人間達からの意見ばかりを重視すると、いわゆる「ワンマン経営」状態となる。
さらに追い打ちをかけるのがデジタル機器である。
共感能力が低下しているデジタル機器世代は、自分の意見と異なる立場を表明する人間より、自分と同調してくれる人間の情報ばかりを集めたがる。
皆さんの周りにもいないだろうか。
反対意見をコメントされただけで、すぐにその意見したユーザーを自分の世界からブロックしてしまう人を。
自分と反対の意見を受け入れてなお、改めて自分の考えを述べる(逆ギレ気味の方もいるが)姿勢の方がまだいい。
こういった傾向は、デジタル機器世代もそうだが、その世代ではない年輩の方々にもよく見られる。
”今の若いもんは・・・”というアレである。
学生運動や高度経済成長など戦後の日本を懸命に渡り歩いてきた、と自負している年輩にとっては、同じ時代を生きてきた人たちを同士とみなす人が多い。
これもまた「内集団バイアス」が掛かっている状態だ。
実際は、若い世代が興味を持ったり夢中になっているものが、今の時代のトレンドになっていても、
特に年輩者は、そのような若い人からの意見やアドバイスを聞くことを嫌う傾向にある。
”今の若いもんは車に乗らなくなった・・”
と頑張って働いて貯めたお金で車を買う行動をステータスとしていた世代は、なぜ若い世代が車に乗らなくなったのかをリサーチしない。
単に、今の車に若者が興味を示さなくなっただけであるのか、
軽自動車のようなコンパクトカーに需要があるのか、
内装にどのような設備が付属したら購買意欲が湧くのか、
若い世代からのアドバイスを聞くだけで進むべき方向性も見えてくるかもしれない。
リーダーとなる人間が正しい判断をするためには、それが例え自分と間逆な意見を持っている人種や年齢の離れた世代、違う性別であっても、分け隔てなく様々な意見を聞き入れる必要があるのだ。
3つ目の弱点は、「確実性を好むバイアス」である。
皆さんの組織の中にも、極端に
「自分の失敗や間違いを恐れている人」
がいるのではないだろうか。
なにか分からない問題が目の前に出されると、
それが分からない自分を恥じ、無理やり答えを導きだそうとする。
そして、その答えに絶対の自信を持とうとする。
リーダーとなる人間であっても、この「確実性バイアス」は少なからず存在する。
王道のパターンや確実に結果の出る答えは、誰であっても居心地のいいものである。
ただ、組織を率いるリーダーにとっても時代の難局は、これまでの経験などを踏まえたとしても100%確実に乗り切れるわけではない。
リーダーが分からない自分を恥じて、無理やり導き出した答えを振りかざすようでは、問題解決が先送りされてしまう。
最後の弱点は、「考えることをさぼる癖」である。
プロジェクトを進めてきた組織のメンバーたちがそのプロジェクトの大きな問題に直面したとする。
その場合、これまで自分が経験・実行してきた実績を元に、「新たな問題」という新しい情報を自分たちの都合のいいように解釈してしまう。
よく見られるのが、
「え~!今さらだよねぇ!」
「それで上手く言ってたんだから直さなくてもいいんじゃない?」
「なるべく元の形を残したまま繋げないかな?」
のようなこれまでの実績を無駄にせず、これからの作業を多大な労力にしないような措置を考えてしまう場合である。
リーダーとなる人間は、こういった不満にも近い矛盾の解消をメンバーたちをなだめながら正しい道筋を選択していかなければならない。
これまで挙げた4つの弱点は、人間なら誰しも持っている脳の弱点である。
だが、リーダーシップを発揮する人とは、努力や経験によって、
こういった弱点を克服し、不慣れな環境や未知のゾーンへと足を踏み入れる過程を恐れない人たちだ。
伸び悩む会社には、
「過去の栄光を捨てきれない」
という事例がある。
求められている技術や発想は、新しい分野なのに、
会社が大きくなった理由である「過去の栄光」を簡単に手放せず、
それに縛られるために、新しい目標に全力で向かうことができない。
そこには、
1つのことに集中できずなんでもかんでも自分が手を出し
自分の意見が一番正しいと思い、
これまで築き上げた確実なことを行い、
熟考することをやめてしまった
リーダーシップを発揮しきれていないリーダーの姿があるのかもしれない。
【参考:Newsweek日本版2019年6月18日号「至高のリーダー論」より】