このページには広告が含まれる場合があります。
シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)の中国代表や日本代表のヘッドコーチを歴任してきた井村雅代氏が、最近の選手と接している中で驚いたことがあると言う。
それは、「選手たちに自分の言葉が通じない」ということだ。
チーム内には、レベルを上げていくための競い合いが必要となる。
ところが、最近の若い選手たちは、とにかく横並びを好む。
そのため、隣の選手たちのことはほっとくように、自分ができることを100%やるように言っている。
日々の苦しい練習の積み重ねでしかメダルを取ることができない、と理解していた10年前の選手とは違い、それがなくてもメダルが取れると思っている今の若い選手たちにはアメとムチ、あの手この手を使って色々な話をするようにしている。
説教だと思われたら負けで、
遠回しにせずダイレクトに短く伝えるようにしないとならない。
そのため、選手たちへの声の掛け方も以前とは違い、
試合前などは、選手たちを”戦うモード”へと切り替えてあげる必要があるし、
「人に聞く」ことが苦手で自分の考えだけでやり続ける選手たちには、
「もっとコーチを頼りなさい」
と声をかけ続ける。
これはとても面倒くさい。
全員に話が通じるわけではないし、
今日言ってダメだったことが明日届くこともある。
しかし、今の若い選手たちがこういう実態である以上、
面倒くさいとは言ってられないのだ。
そんな井村氏が、日本のヘッドコーチに復帰してから一番多く掛けた言葉は
「〇〇をしなさい」
だと言う。
「自分はがんばった」
と自己申告する選手がいるが、これは他人が決めるものである。
もっと前へ行くなら〇〇をしなければならないし、
特にシンクロの世界で成功している人は、国内・国外問わず
金メダルを取ってもまだまだ上を目指している人が多い。
加えて「もう駄目だ」、「これ以上はできない」と押しつぶされそうになっている人のところには、幸運も逃げて行ってしまう。
運は相手を選んでやって来るのであるから、
前を向かない選手のところには幸運はやってこないし、
「運のいい人」というのは、不運を排除する能力がある人でもある、
と井村氏は考える。
これは、社会人にとっても同じことが言える。
新入社員などは仕事を始めてみて、それが自分に合わないと思うと
会社を辞めてしまう人が多い。
その仕事に染まる前に、「もう駄目だ」と諦めてしまっては、
やはり前に進むことはできない。
嫌なことを避けても結局は同じことを繰り返す。
その会社に染まった上で、転職などを考えるのはいいとして、
経験したことをしっかりと整理して次につなげることが大事となってくる。
こうやって若い人たちを見てきた井村氏は、
「今のままでは日本人は世界で勝てない」と言う。
自分の考えをはっきりと主張する外国人選手を指導してきた一方で、
日本の若い人を見ると、自分の考えを言うこと自体が少なく、
もし、言ったことが否定されたら、
その人の人生までを否定されたような自信の喪失感を見せる。
間違ってもいい。
間違うことは恥ずかしくないし、それが若い人の特権でもある。
そのためには、コーチは選手一人一人の人生、上司は部下や社員の人生を預かっている気持ちで接する必要があるし、
間違いや失敗を受け止める度量を上司や経営者、コーチなどのリーダーが持たなくてはならない
と井村氏は語る。
↓Kindle版